ヨーロッパでのソルミゼーションの歴史

1)ドレミの起源と階名唱のはじまり

 西洋音楽の起源とも言えるグレゴリオ聖歌は、キリスト教の集会などで歌われていた曲を編纂したものです。その当時は物を書くための羊皮紙や紙が貴重だったこともあり、楽譜を記述するということは困難でした。それに加え、当時の聖歌は詩や詩篇を曲というよりは、むしろ節や音の高さをつけた朗読といった形に近かったので、その伝承方法は口伝が主でした。
 そういった時代に現れたのがイタリアの音楽指導者グイード・ダレッツォ(Guido d’Arezzo、991ca~1033以降)です。彼の偉大な功績にはドレミファのもとになった階名唱法の確立もありますが、「グイードの手」と呼ばれる、音を手の部位ごとに設定して曲を伝えるのに活用した、楽譜の起源とも言える方法を開発したことも挙げられます。また彼は、音楽の基礎を学ぶ少年たちのために「ミクロロゴス」を書きました。

2)一般教育へのソルミゼーションの導入

 イギリスの音楽教育者ジョン・カーウィン(John Curwen,1816~1880)が完成した階名唱法です。この時代には教育現場でピアノの普及が進んでいて、音楽教育では平均律のピアノを弾きながらの歌唱指導がおこなわれていました。そのため、合唱であっても純正調の音でなく平均律の音での和音が響いていました。ジョン・カーウェンはその状況を変えるべくトニック・ソルファの理論を完成させます。それは、音階の基本の音である主音をド(doh)とする「移動ド」のシステムでした。また、カーウィンはハンドサインも考案しました。

3)ソルミゼーションの画期的なメソッドの完成

 ハンガリーの音楽教育者であり作曲家のコダーイ・ゾルターン(Kodály Zoltán,1882-1967)はトニック・ソルファなど理論を統合して幼児からの音楽教育法「コダーイ・メソッド」を完成させました。小さいときから自国のわらべうた等の民族に由来する教材を使って子どもたちの音楽的な力を育て、成長とともにその内容も幅広くしていくという教育法で、その過程でトニック・ソルファや階名唱が取り入れられました。

参考文献

・『新編音楽中辞典』音楽之友社、2002
・竹井成美『音楽を見る!教育的視点による平均律・五線譜・ドレミ誕生の歴史』音楽之友社、1997
・東川清一『音律論』春秋社、2013

移動ドの利点

・相対的な音程感覚を身につけられる。
・音の持つ機能を認識して歌うことができる。
・内的聴感(頭の中で音を思い浮かべることができる音楽的能力のこと)の発達を促す。